ADHD(注意欠陥・多動性障害)と聞いて、多くの人がまず思い浮かべるのは、じっとしていられない子どもの姿かもしれません。教室の中を飛び回り、常に動き回っているようなイメージ。しかしそれは、ADHDの一側面に過ぎません。もっと静かで、見落とされがちなタイプが存在します。それが「不注意優勢型ADHD(かつてはADDとも呼ばれていました)」です。
多動性や衝動性が目立つタイプに比べて、不注意優勢型ADHDは「集中力・整理整頓・精神的努力の持続」が困難なタイプです。つまり、「動きすぎて止まらない」のではなく、「始められない・続けられない」のです。
私自身の体験
私は長年、自分の問題は「努力不足」や「怠け」だと思い込んでいました。物をよくなくす、締切に間に合わない、やるべきことをやりきれない。周囲からは「もっとちゃんとやれ」「だらしない」と言われ、自己嫌悪に陥ることもしばしばでした。ですが、それは性格の問題ではなく、「不注意優勢型ADHD」の症状だったのです。このタイプの困難は、外からは見えにくい分、より深刻になりやすいのです。
では、不注意優勢型ADHDとは何か?他のタイプとどう違うのか?詳しく見ていきましょう。

不注意優勢型ADHDの主な特徴
このタイプのADHDは、以下のような課題に悩まされることが多いです:
注意力と集中力
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興味がないことに集中し続けるのが難しい
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外部の刺激(音や光)や内面の思考(空想、考えごと)に気を取られやすい
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話を聞いているつもりでも、「聞いていないように見える」ことがある
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必要な物(鍵、財布、書類など)を頻繁になくす
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タスクの整理整頓が苦手で、何から手をつけていいかわからなくなる
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書類作成やレポートなど、精神的負荷の高いタスクを避けがち
計画と整理の困難
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タイムマネジメントが難しく、締切を守るのが苦手
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複数のタスクの優先順位をつけて順番にこなすことが難しい
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デスクや部屋、PC内のフォルダが散らかりやすい
ワーキングメモリーの弱さ
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約束や予定、指示をすぐに忘れてしまう
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手順が多いタスクをこなすときに途中で抜け落ちる
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読んだ内容や聞いたことをすぐに忘れてしまい、誤解や混乱を招く
精神的なエネルギーの維持が困難
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長時間の集中が苦手で、精神的な疲労を感じやすい
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会話中や作業中に「ぼーっとする」「上の空になる」
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集中を必要とするタスクに圧倒され、つい先延ばしにしてしまう

他のADHDタイプとの違い
不注意優勢型と多動性・衝動性タイプとの主な違いは、「動きの多さ・衝動的な行動があるかどうか」です。
不注意優勢型ADHD:
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上記のような「集中力・整理・記憶」の困難が中心
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過度な落ち着きのなさや衝動性はあまり見られない
多動性・衝動性タイプADHD:
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じっと座っていられない、他人の話を遮る、思いついたらすぐ行動してしまう、などの行動が目立つ
混合型ADHD:
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不注意と多動・衝動の両方の特徴を持つタイプ
たとえば、会議中に頻繁に発言してしまうのが多動性タイプ、会議中に頭がぼーっとして話が入ってこないのが不注意優勢型の特徴と言えます。
「静かな困難」:不注意優勢型ADHDが抱える課題
このタイプのADHDは、外から見えにくいために見逃されやすく、以下のような二次的な問題を引き起こすことがあります:
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学業や仕事での成果不足:集中力の問題から、成績や業務評価に影響が出やすい
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自己肯定感の低下:できない自分に対して「なんでこんなことも…」と責めてしまう
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人間関係のすれ違い:忘れっぽさや約束を守れないことが、誤解やトラブルにつながる
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不安やうつのリスク:できないことが積み重なり、心の負担になることも

診断とサポート
もし自分や身近な人にこれらの特徴が当てはまると思ったら、専門の医療機関や心理士に相談してみてください。正式な診断を受けることで、自分に合った支援(薬・カウンセリング・認知行動療法など)を受ける道が開かれます。
おわりに:見えにくいけれど、確かにある困難
不注意優勢型ADHDは、目立たないがゆえに軽視されたり誤解されたりしがちです。でも、それは「やる気がない」や「だらしない」ことではなく、「脳の特性」のひとつです。
この特性を正しく理解し、適切なサポートと工夫を取り入れれば、自分の力を最大限に発揮することができます。
あなた自身やあなたの大切な人が、少しでも「自分を責めずに済む」きっかけになれば嬉しいです。
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